三角比は直角三角形の3辺の長さの比により定義されましたが、この定義では角度 \(\large{\theta}\) は鋭角 (\(\large{0^\circ < \theta < 90^\circ}\)) の範囲に限定されます。
一方、三角比を直角三角形ではなく、円の座標で定義することで、角度を \(\large{\theta=120^\circ}\) や \(\large{\theta=150^\circ}\) など、鈍角を含めた範囲 (\(\large{ 0^\circ \leqq \theta \leqq 180^\circ}\)) にもとることが可能になります。
下図に、『直角三角形の辺の比による定義』と、『座標による定義』の比較を示します。
『座標による定義』では、中心が原点\(\large{O}\)、半径\(\large{r}\) の円上に点\(\large{P}\)(\(\large{x,y}\)) をとります。
このとき、三角比の角度 \(\large{\theta}\) は、"円と\(\large{x}\)軸の正の交点\(\large{A}\) と 原点\(\large{O}\)による線分\(\large{\overline{AO}}\)" を基準とし、"点\(\large{P}\) と 原点\(\large{O}\)による線分\(\large{\overline{PO}}\)" までを反時計回りに計った角度で定義されます。
この角度 \(\large{\theta}\) に対する三角比を、点\(\large{P}\)の座標(\(\large{x,y}\))と半径\(\large{r}\)により定義します。
上記の三角比の定義を、具体的な角度を与えて解説します。
まず、角度 \(\large{\theta=60^\circ}\) の場合について考えます。
角度 \(\large{\theta}\) が鋭角 (\(\large{0^\circ < \theta < 90^\circ}\)) である場合は、直角三角形による三角比の定義と一致します。
点\(\large{P}\)の\(\large{x}\)座標、\(\large{y}\)座標はともに正となり、三角比sin、cos、tanの符号は全て正となります。
例えば、半径を \(\large{r=2}\)、点\(\large{P}\)の座標を(\(\large{1,\sqrt{3}}\))とすると、以下の図のように角度 \(\large{\theta=60^\circ}\) となります。
上図のように角度\(\large{\theta=60^\circ}\)の場合は、三角形\(\large{POH}\)が、斜辺\(\large{2}\)、底辺\(\large{1}\)、高さ\(\large{\sqrt{3}}\) の直角三角形と同じ形を描きます。
次に、角度 \(\large{\theta=120^\circ}\) の場合について考えます。
座標による定義では、線分\(\large{\overline{AO}}\) から 線分\(\large{\overline{PO}}\) に反時計回りに計った角度によって \(\large{\theta}\) が定義されます。下図のように、\(\large{x}\)座標を負、\(\large{y}\)座標を正とすることで、\(\large{x}\)軸からの角度が\(\large{90^\circ}\)よりも大きい角度を表現することができます。
以下の図のように、半径を \(\large{r=2}\)、点Pの座標を(\(\large{-1,\sqrt{3}}\))として、角度 \(\large{\theta=120^\circ}\) を表します。
図のように、三角形\(\large{POH}\) は、斜辺\(\large{2}\)、底辺\(\large{1}\)、高さ\(\large{\sqrt{3}}\) の直角三角形を描いていることが分かります。角度 \(\large{\theta=60^\circ}\) の場合と比較すると、三角形の形状は変わりませんが、\(\large{x}\)座標が負となるように配置され、\(\large{y}\)軸に関して対称的となっていることが分かります。
座標で定義された三角比の重要な性質として、その座標の符号により三角比の正負が変わります。
角度 \(\large{\theta}\) が鋭角 (\(\large{0^\circ < \theta < 90^\circ}\)) の場合は、直角三角形で定義される三角比と同様に \(\large{\sin \theta}\)、\(\large{\cos \theta}\)、\(\large{\tan \theta}\) は正の値となります。
一方、鈍角 (\(\large{90^\circ < \theta < 180^\circ}\)) の場合、\(\large{\sin \theta}\) が正の値で、\(\large{\cos \theta}\)と\(\large{\tan \theta}\) が負の値になります。
三角比を座標で定義することで、直角三角形では定義できなかった角度\(\large{\theta}\) が \(\large{0^\circ}\) や \(\large{90^\circ}\) などの場合の三角比を求めることができます。
例えば、以下の図に角度 \(\large{\theta=0^\circ}\) の場合の三角比を示します。下図のように、点\(\large{P}\)を\(\large{x}\)軸上で点\(\large{A}\)と一致した位置にすることで角度 \(\large{\theta=0^\circ}\) を表現します。
同様の求め方で90度、180度の場合に得られる三角比を以下にまとめます。
角度 | \(\large{0^\circ}\) | \(\large{90^\circ}\) | \(\large{180^\circ}\) |
---|---|---|---|
\(\displaystyle \large{\sin \theta}\) | \(\displaystyle \large{0}\) | \(\displaystyle \large{1}\) | \(\displaystyle \large{0}\) |
\(\displaystyle \large{\cos \theta}\) | \(\displaystyle \large{1}\) | \(\displaystyle \large{0}\) | \(\displaystyle \large{-1}\) |
\(\displaystyle \large{\tan \theta}\) | \(\displaystyle \large{0}\) | × | \(\displaystyle \large{0}\) |
角度\(\large{\theta=90^\circ}\) に対する \(\large{\tan \theta}\) は、分母の \(\large{\cos \theta}\)が \(\large{0}\) となってしまうため定義されません。
三角比の拡張に関連した例題を解説します。
【解答と解説】
鈍角の角度の三角比の値を求める問題では、点\(\large{P}\)の\(\large{x}\)座標が負となるように直角三角形\(\large{POH}\)を配置して、線分\(\large{\overline{AO}}\) から 線分\(\large{\overline{PO}}\) までの角度が鈍角となるようにします。
問題(1)の角度 \(\large{\theta = 150^\circ}\) では、下図のように \(\large{30^\circ}\) の角度を持つ斜辺\(\large{2}\)、底辺\(\large{\sqrt{3}}\)、対辺\(\large{1}\)の直角三角形を、\(\large{x}\)座標が負の位置になるように直角三角形\(\large{POH}\)として配置します。
上図より、\(\large{\sin}\)の値は、\(\displaystyle \large{\sin \theta = \frac{1}{2}}\)となります。
また、\(\large{\cos \theta}\)と\(\large{\tan \theta}\)は、\(\large{x}\)座標が負であるため負の値となります。上図から、それぞれ\(\displaystyle \large{\cos \theta = -\frac{\sqrt{3}}{2}}\)、\(\displaystyle \large{\tan \theta = -\frac{1}{\sqrt{3}}}\)となります。
【解答と解説】
問題(2)の角度 \(\large{\theta = 135^\circ}\) では、下図のように \(\large{45^\circ}\) の角度を持つ斜辺\(\large{\sqrt{2}}\)、底辺\(\large{1}\)、対辺\(\large{1}\)の直角三角形を、\(\large{x}\)座標が負の位置になるように直角三角形\(\large{POH}\)を配置します。
上図より、\(\large{\sin}\) の値は、\(\displaystyle \large{\sin \theta = \frac{1}{\sqrt{2}}}\) となります。
また、\(\large{\cos \theta}\) と \(\large{\tan \theta}\) は、\(\large{x}\)座標が負であるため負の値となり、それぞれ \(\displaystyle \large{\cos \theta = -\frac{1}{\sqrt{2}}}\)、\(\displaystyle \large{\tan \theta = -1}\) となります。