本項では、以下の内容について解説します。
(関連項目として、組み合わせレンズの合成焦点距離を計算するツールを別のページで作成しています。)
焦点距離は、レンズの主点位置から焦点までの距離を意味します。
1枚の薄い単レンズの場合は、主点位置はレンズの位置に相当するため、焦点距離はレンズから焦点までの距離のことを指します。
一方、複数のレンズが組み合わさった場合、各レンズの焦点距離やレンズ間の間隔に依存して、レンズ全体の焦点距離は変化します。
合成焦点距離とは、複数のレンズを組み合わせたときの主点位置から焦点までの距離を意味します。
本項では、最も簡単な2つの薄肉レンズを組み合わせたときの合成焦点距離を例として解説します。
合成焦点距離は、主点位置\(\large{H}\)と焦点\(\large{F}\)から作図をすることができます。
図1のように、2枚の薄肉レンズが間隔dで配置されているとします。
まず、物体側(左側)からレンズに入射する平行な光線を考えます。平行に入射した光線は、焦点\(\large{F}\)に集光します。その焦点へ向かう光線を逆方向に延長し、レンズに入射する平行光を延長した線との交点から、光軸に垂直に下した位置が主点位置\(\large{H}\)となります。
このとき、2枚の薄肉レンズの合成焦点距離は、図1中のように主点位置\(\large{H}\)から平行光の焦点位置\(\large{F}\)までの距離として定義されます。
組み合わせレンズの作図については別の記事で詳しく解説しています。
複数のレンズを組み合わせた合成焦点距離の計算式は、近軸光線追跡により求めることができます。
本章では、近軸光線追跡により計算される合成焦点距離の計算式を示します。
薄肉レンズを2枚組み合わせた合成焦点距離は、1枚目のレンズの焦点距離を\(\large{f_1}\)、2枚目のレンズの焦点距離を\(\large{f_2}\)、レンズの間隔を\(\large{d}\)とすると、以下の式により求めることができます。
\(\large{ \displaystyle \frac{1}{f}=\frac{1}{f_1}+\frac{1}{f_2}-\frac{d}{f_1 f_2}\hspace{20pt}(1)}\)
(1)式より、2枚のレンズの間隔\(\large{d}\)が変化することにより、合成焦点距離が変化することが分かります。
2枚の薄肉レンズが密着している場合、(1)式において\(\large{d=0}\)であるため、2枚の合成焦点距離は以下のように求められます。 $$\large{\frac{1}{f}=\frac{1}{f_1}+\frac{1}{f_2}\hspace{20pt}(2)}$$
(2)式から、複数の薄肉レンズが密着している場合は、各レンズの焦点距離の逆数の和によって合成焦点距離が求められるため、密着した\(N\)枚の薄肉レンズの合成焦点距離\(f\)は以下のように求められます。
\(\large{ \displaystyle \frac{1}{f}=\sum_{i=1}^{N} \frac{1}{f_i}\hspace{20pt}(3)}\)
(1)式より、2枚の薄肉レンズの合成焦点距離は、レンズの間隔dに依存して変化することが分かります。
\(\large{ \displaystyle \frac{1}{f}=\frac{1}{f_1}+\frac{1}{f_2}-\frac{d}{f_1 f_2}\hspace{20pt}(1)}\)
本章では、2枚の正レンズ(焦点距離がそれぞれ\(\large{f_1>0}\)、\(\large{f_2>0}\))が光軸上に並んでいる場合を例に取り、間隔\(\large{d}\)を変化させたときの合成焦点距離について解説を行います。
合成焦点距離は、焦点距離の符号や焦点位置の違いにより、以下の(Ⅰ)~(Ⅲ)の場合に分けることができます。
間隔\(\large{d}\)の条件 | 合成焦点距離の符号 | 焦点位置 |
---|---|---|
(Ⅰ) \(\large{0< d < f_1}\) | 正 | 2枚目のレンズの像側 |
(Ⅱ)\(\large{f_1< d < f_1 + f_2}\) | 正 | 1枚目と2枚目の中間 |
(Ⅲ) \(\large{f_1 + f_2 < d}\) | 負 | 2枚目のレンズの像側 |
以下の章では、(Ⅰ)から(Ⅲ)の詳細を解説します。
図2に間隔\(\large{d}\)が\(\large{0< d < f_1}\)の場合を図示します。
レンズ間隔が\(\large{0< d < f_1}\)であるとき、主点位置\(\large{H}\)は第1レンズと第2レンズの間に位置します。また、焦点位置\(\large{F}\)は第2レンズの像側(右側)に位置します。
合成焦点距離は、主点位置\(\large{H}\)から焦点位置\(\large{F}\)の距離で定義されるため、正の値になります。
また、2枚のレンズ間隔\(\large{d}\)が離れるほど、合成焦点距離は正の方向に大きくなります。
図3に2枚の正レンズの間隔が\(\large{f_1< d < f_1 + f_2}\)のときの場合を図示します。
この場合、図3に図示されているように焦点位置\(\large{F}\)は第1レンズと第2レンズの間に位置します。
また、主点位置\(\large{H}\)は焦点位置\(\large{F}\)から延長線を延ばし、入射する平行光を延長した交点の位置となるため、第1レンズの物体側(左側)に位置します、
したがって、主点位置\(\large{H}\)から焦点位置\(\large{F}\)は右向きであるため、焦点距離は正の値を取ります。
図3は光線が負レンズのように発散しているように見えますが、正の屈折力(焦点距離)を持った光学系です。
図4に、光学系を1枚の薄肉レンズに置き換えた光学系を示します。
主点位置\(\large{H}\)に合成焦点距離\(\large{f}\)と等しい焦点距離の薄肉レンズを配置することで、1枚の正レンズに置き換えて考えることができます。
2枚の正レンズからなる焦点位置\(\large{F}\)には実際の光線は存在していませんが、図4上側の点線を主点位置\(\large{H}\)から像側に辿っていくと、図4下側の正レンズと同じ経路の光線を射出していることが分かります。
図5に2枚の正レンズの間隔が\(\large{f_1 + f_2 < d }\)のときの場合を図示します。
この場合、図5に図示されているように焦点位置\(\large{F}\)は、第2レンズの像側(右側)に位置します。
また、主点位置\(\large{H}\)は焦点位置\(\large{F}\)から延長線を延ばし、平行光との交点の位置となるため、焦点位置よりもさらに右側に位置します。
このとき、主点位置\(\large{H}\)から焦点位置\(\large{F}\)は左向きであるため、焦点距離は負の値を取ります。
図5は一見すると、入射する光線を収束させているように見えるため、正の屈折力を持っているように感じます。
しかし実際には、主点位置\(\large{H}\)と焦点位置\(\large{F}\)の位置関係から負の屈折力を持っていることが分かります。
ここで、図6に、光学系を1枚の薄肉レンズに置き換えた光学系を示します。
図6に示すように、主点位置\(\large{H}\)に負の焦点距離を持つ凹レンズを配置した場合と同じ経路で光線を射出していることが分かります。
上記の2枚の正レンズの光学系が、平行光を収束させているにも関わらず負の焦点距離を持つ理由は、第1レンズと第2レンズの間で光線の上下関係が逆転しているためです。
第1レンズの上側を通った平行光が、第2レンズでは下側で屈折されることで、元の平行光から見ると光線が発散されていることが分かります。