本項では以下の内容を解説しています。
水面を伝わる波は、水面を上下に振動させながら、特定の方向に伝搬していきます。
また、音は空気の圧縮と膨張を繰り返しながら、特定の方向に伝搬します。
波とは、水や空気といった媒質の振動が、周囲の媒質に伝わっていく現象のことです。
波動光学の分野では、光を波として扱うことで、回折や干渉といった現象が説明されます。
本章では、波をどのように式で表現するかについて解説します。
最も基本的な波の式として、正弦波がよく使用されます。
まず、図1のようにある時刻において、位置 \(\large{x}\) が \(\large{0}\) のとき変位が \(\large{0}\) となるような正弦波について考えます。
このとき、図1の正弦波は以下のように表せます。
$$\large{f(x)= A \sin \frac{2\pi}{\lambda}x \hspace{20pt}(1)}$$
上式の \(\large{A}\) は 波の振れ幅を表し、\(\large{x}\)軸から波形の頂点までの距離、すなわち 変位量の最大値を意味します。
また、\(\large{\lambda}\) は波長を表し、波形の山と山の間隔を意味します。
また、\(\displaystyle\large{\frac{2\pi}{\lambda}}\) の項は波数といいます。波数は記号 \(\large{k}\) により記述されます。
波数\(\displaystyle\large{k=\frac{2\pi}{\lambda}}\)を使用することで、(1)式は以下のようにも表記されます。
$$\large{f(x)= A \sin kx}$$
波数\(\large{k}\) がなぜ \(\displaystyle\large{\frac{2\pi}{\lambda}}\) と表されるのかは、別のページの『波数とは』に説明しています。
正弦波が \(\large{x}\)軸方向に速度 \(\large{v}\) で進行しているとき、時刻\(\large{t}\) における波の式は、\(\large{x}\)軸方向に \(\large{vt}\) だけ平行移動させることにより表現します。
以下の図2に、(1)式の正弦波と、その正弦波を \(\large{vt}\) だけ平行移動させたときのグラフを示します。
\(\large{x}\)軸の正方向に進行する正弦波は、(1)式の \(\large{x}\) に \(\large{x-vt}\) を代入することで、以下のように表せます。
一方、x軸の負方向に進行する正弦波は、(1)式の \(\large{x}\) に \(\large{x+vt}\) を代入し表現します。
(2)式の時刻\(\large{t}\) における正弦波の式は、パラメータを変形することで、様々な形式で記述されます。本章では、(2)式を変形して記述した正弦波の式について解説します。
波長 \(\large{\lambda}\) 分だけ波が進行する時間を周期 \(\large{T}\) といいます。
波が1周期分の進行する時間が周期 \(\large{T}\) であることから、波の速度\(\large{v}\)、波長\(\large{\lambda}\)、周期\(\large{T}\) の関係は以下のようになります。
$$ \large{v=\frac{\lambda}{T}\hspace{20pt}(3)}$$
(3)式を使用して、(2)式を変形すると以下のように表せます。
波数 \(\displaystyle\large{k=\frac{2\pi}{\lambda}}\) と同様な形式で、角周波数 \(\displaystyle\large{\omega=\frac{2\pi}{T}}\) というパラメータが使用されます。
波数\(\large{k}\) と角周波数\(\large{\omega}\) を使用すると、(2)式は以下のように表すことができます。
単位時間に伝搬する波の数を振動数 \(\large{f}\) といいます。
波が1周期分だけ伝達する時間を表す周期\(\large{T}\) と振動数\(\large{f}\) は、逆数の関係にあるため以下が成り立ちます。
$$\large{f= \frac{1}{T}}$$
ここで、(3)式より波の速度\(\large{v}\) を振動数\(\large{f}\) と波長\(\large{\lambda}\) により表すと、以下のようになります。 $$\large{v=\frac{\lambda}{T} = \lambda f}$$
したがって、(2)式を振動数\(\large{f}\) を使用して記述すると、以下のようになります。
以上の内容をまとめると、x軸の正方向に進行する正弦波の式は、以下のような式で記述されます。 \begin{eqnarray} \large f(x,t)&=&\large A \sin \frac{2\pi}{\lambda}(x-vt)\\[0.7em] \large f(x,t)&=&\large A \sin \left(\frac{2\pi}{\lambda}z-\frac{2\pi}{T}t \right)\\[1em] \large f(x,t)&=&\large A \sin (kz-\omega t)\\[1em] \large f(x,t)&=&\large A \sin 2\pi f \left(\frac{x}{v}-t \right) \end{eqnarray}
また、x軸の負方向に進行する正弦波の式は、以下のように符号を変えて記述されます。 \begin{eqnarray} \large f(x,t)&=&\large A \sin \frac{2\pi}{\lambda}(x+vt)\\[0.7em] \large f(x,t)&=&\large A \sin \left(\frac{2\pi}{\lambda}z+\frac{2\pi}{T}t \right)\\[1em] \large f(x,t)&=&\large A \sin (kz+\omega t)\\[1em] \large f(x,t)&=&\large A \sin 2\pi f \left(\frac{x}{v}+t \right) \end{eqnarray}
波の変位は実数で表されますが、複素数で記述した方が計算が簡単であることから、複素数の実部として波を扱うことがあります。
オイラーの公式より、以下の関係が成り立ちます。 $$\large{e^{i \theta} = \cos \theta + i \sin \theta}$$
上式から、虚数\(\large{i}\)、複素数の実部を表す \(\large{Re[\ ]}\) を使用することで、正弦波を表記できます。 $$\large{f(x,t)=\mathrm{Re}[A \exp i(kz-\omega t)]=A \cos (kz-\omega t)}$$
また、以下の式のように \(\large{Re[\ ]}\) をつけずに、複素数のままで使用する場合もあります。このように波の式を扱う場合は、複素振幅という言い方をします。 $$\large{f(x,t)=A \exp i(kz-\omega t)}$$