本項では以下の内容を解説しています。
偏光(polarization)とは、光の電場(磁場)が規則的に振動している状態のことをいいます。
通常、光は無数の原子から無作為に放出され、空間内を規則性のない振動として伝わります。このような、偏光していない状態の光を、『ランダム偏光』 や 『無偏光』 といいます。
一方、光が特定の角度で水面やガラスで反射したり、特定の振動方向を遮る偏光板を通過したりした場合、光の電場の振動方向が規則的になり、偏光を持つようになります。
本項では、偏光を数式で表現する方法 や、直線偏光 や 円偏光、偏光板 などについて解説します。
偏光の状態は、x軸成分 と y軸成分 の電場のベクトル和によって表現することができます。
例えば、z軸方向に進行する光の偏光は、x軸方向 と y軸方向 の2つの次元により記述することができます。
時刻\(\large{t}\) におけるx軸方向の電場\(\large{E_x}\) と、y軸方向の電場\(\large{E_y}\) を以下のように正弦波で書き表します。
\begin{eqnarray} \large E_x&=&\large E_{x0} \cos(kz-\omega t)\\ \large E_y&=&\large E_{y0} \cos(kz-\omega t+\delta)\\ \end{eqnarray}\(\large{E_{x0}}\) と \(\large{E_{y0}}\) はx、y軸方向のそれぞれの電場の振幅を表します。
また、\(\large{\delta}\) はx軸とy軸の振動の位相差を表しています。例えば、\(\large{\delta>0}\) のとき、\(\large{E_y}\) は \(\large{E_x}\) に対して位相差\(\large{\delta}\) だけ遅れて振動していることを表します。
直交する2つの電場のベクトル和が、合成波の振動の様子を表現します。合成波の電場を \(\large{\vec{E}}\)、x軸とy軸の電場をそれぞれ\(\large{\vec{E_x}}\)、\(\large{\vec{E_y}}\) とすると、以下のように書き表せます。
$$\large{\vec{E} = \vec{E_x} + \vec{E_y}}$$1方向のみに電場(磁場)が振動する偏光状態を 直線偏光(linear polarization)といいます。
\(\large{\delta=0}\) もしくは、\(\large{\delta}\) が \(\large{2 \pi}\) の整数倍であるとき、x方向とy方向の位相差が \(\large{0}\) となります。
このとき、xy平面上の振動は1方向となり、直線偏光となります。(また、\(\large{\delta}\) が \(\large{\pi}\) の奇数倍のときも、直線偏光となります。)
ここで、位相差\(\large{\delta=0}\) であるときのx成分の電場\(\large{E_x}\) と、y成分の電場 \(\large{E_y}\) は以下のようになります。
\begin{eqnarray} \large E_x&=&\large E_{x0} \cos(kz-\omega t)\\ \large E_y&=&\large E_{y0} \cos(kz-\omega t)\\ \end{eqnarray}図1に、上式で表現される\(\large{\delta=0}\)である場合の x軸成分、y軸成分 の電場と、その合成波の電場 がz方向に伝搬する様子を示します。
ここで、図1のx軸成分、y軸成分の電場とその合成波の電場を進行方向から見たとき、時間経過にともなう振動の様子を図2に示します。
このように直線偏光では、時間経過にともなう合成波の振動の軌跡を描くと、直線上に振動していることが分かります。
ここで、直線偏光のx軸からの傾き\(\large{\theta}\) は、x軸成分 と y軸成分 の振幅の大きさの比によって計算されます。
$$\large{\tan \theta =\frac{E_{y0}}{E_{x0}}}$$x軸、y軸の振幅が等しい場合 (\(\large{E_{x0}=E_{y0}}\))、直線偏光のx軸からの傾きは \(\large{\theta =45^{\circ}}\) となります。
電場の振動方向が、円を描く偏光状態を円偏光(circular polarization)といいます。
x成分 と y成分 の電場の振動が以下の状態であるとき、偏光状態は円偏光となります。
・\(\large{ \displaystyle \delta = \pm \frac{\pi}{2}+2m \pi }\) (位相差が\(\large{\pm \frac{\pi}{2}}\)と\(\large{2 \pi}\)の整数倍だけ異なる)
・\(\large{E_{x0}=E_{y0}}\) (x成分とy成分の振幅の大きさが一致)
円偏光は、光の伝搬方向から見た電場の回転方向によって、『右回り円偏光』 もしくは 『左回り円偏光』 と区別して呼びます。
以下より、位相差が\(\displaystyle \large{\delta = -\frac{\pi}{2}}\) の場合(右回り円偏光)と、\(\displaystyle \large{\delta = \frac{\pi}{2}}\) の場合(左回り円偏光)を例として解説を行います。
\(\displaystyle \large{\delta=-\frac{\pi}{2}}\) であるとき、x成分 と y成分 の電場は以下のようになります。
\begin{eqnarray} \large E_x&=&\large E_{x0} \cos(kz-\omega t)\\ \large E_y&=&\large E_{y0} \cos(kz-\omega t-\frac{\pi}{2})\\ \end{eqnarray}上式は、x軸成分 が y軸成分 に対して、\(\displaystyle \large{\frac{\pi}{2}}\) だけ位相が遅れている状態を表します。
上式で表される光を進行方向から見たとき、下図のようにx軸成分とy軸成分を合成した電場は右回りに回転します。
このような偏光状態を、右回り円偏光(right-circular light)といいます。
\(\displaystyle \large{\delta=\frac{\pi}{2}}\) であるとき、x成分 と y成分 の電場は以下のようになります。
\begin{eqnarray} \large E_x&=&\large E_{x0} \cos(kz-\omega t)\\ \large E_y&=&\large E_{y0} \cos(kz-\omega t+\frac{\pi}{2})\\ \end{eqnarray}上式は y軸成分 が x軸成分 に対して、\(\displaystyle\large{\frac{\pi}{2}}\) だけ位相が遅れている状態を表します。
\(\displaystyle \large{\delta=\frac{\pi}{2}}\) であるとき、図4のように x軸成分 と y軸成分 を 合成した電場 は左回りに回転します。
このような偏光状態を、左回り円偏光(left-circular light)といいます。
太陽光などの自然光は、多数の原子や分子から無秩序に光が放出されており、位相や振動方向の異なる光が重なり合った状態になっています。
このような光は、電場(磁場)の振動方向に規則性を持たないため、ランダム偏光(random polarized light)や無偏光(unpolarized light)といいます。
偏光子とは、入射した光の偏光の状態に変化を与える 光学素子 のことをいいます。
本章では、代表的な偏光子である 偏光板、\(\large{\frac{\lambda}{2}}\)波長板、\(\large{\frac{\lambda}{4}}\)波長板について解説します。
特定の方向の振動成分のみを透過する光学素子を 偏光板(polarizer) といいます。
例えば、先述したランダム偏光の光を、偏光板に透過させることで 1方向に振動する直線偏光の光となります。
図6に、ランダム偏光を偏光板に入射し、直線偏光に変換するイメージを図示します。
偏光板には特定の方向に振動する光のみを透過させる透過軸があります。
図6では、透過軸を回転させることにより、直線偏光の方向が変化する様子を示しています。
代表的な偏光板であるポラロイドフィルムは、ポリビニルアルコールを引き延ばし、ヨードの含まれた色素液に浸して作成されたものです。
ヨード分子中の電子が引き延ばされた方向に振動する光のみを強く吸収することで、引き延ばされた方向と直交する成分のみを透過する作用を持ちます。
したがって、ポラロイドフィルムの透過軸は、引き延ばされた方向と直交する方向となります。図6には、引き延ばされた方向と直交する方向に透過軸を記述しています。
波長板とは、入射光の直交する2つの振動成分に 特定の位相差を与える光学素子のことをいいます。
波長板は与える位相差の大きさによって \(\large{\frac{\lambda}{2}}\)波長板(半波長板) や、\(\large{\frac{\lambda}{4}}\)波長板(\(\large{\frac{1}{4}}\)波長板) などが存在します。
相対的に位相の速い方の軸を速軸(fast axis)、位相が遅れる方の軸を遅軸(slow axis)といいます。
\(\large{\frac{\lambda}{2}}\)波長板とは、入射した光のx軸成分、y軸成分に \(\large{\pi}\) の位相差を与える光学素子のことです。
以下の図7に示すように、\(\large{\frac{\lambda}{2}}\)波長板は、角度\(\large{\theta}\) の方向の直線偏光の光を 角度\(\large{2 \theta}\) の直線偏光に変換する作用や、円偏光の回転方向を逆転させる作用を持ちます。
ここで、図7(右)の右回り円偏光の光を \(\large{\frac{\lambda}{2}}\)波長板 に入射した場合の変換を式で説明します。
先述したように、右回り円偏光の光は以下の式で表せます。
\begin{eqnarray} \large E_x&=&\large E_{x0} \cos(kz-\omega t)\\ \large E_y&=&\large E_{y0} \cos(kz-\omega t-\frac{\pi}{2})\\ \end{eqnarray}y方向を遅軸として \(\large{\frac{\lambda}{2}}\)波長板 に入射すると、y軸成分に \(\large{\pi}\) の位相遅れを与えるため、以下のように表せます。
\begin{eqnarray} \large E_x&=&\large E_{x0} \cos(kz-\omega t)\\ \large E_y&=&\large E_{y0} \cos(kz-\omega t+\frac{\pi}{2})\\ \end{eqnarray}\(\large{\frac{\lambda}{4}}\)波長板とは、入射した光のx軸成分、y軸成分に \(\displaystyle \large{\frac{\pi}{2}}\) の位相差を与える光学素子のことをいいます。
\(\large{\frac{\lambda}{4}}\)波長板は、直線偏光を円偏光に変換したり、円偏光を直線偏光に変換する作用を持ちます。
ここで、図8(左)のx軸から45度の方向に振動する直線偏光の光を \(\large{\frac{\lambda}{4}}\)波長板 に入射した場合の変換を式で説明します。
x軸から45度の方向に直線偏光の光は以下の式で表せます。
\begin{eqnarray} \large E_x&=&\large E_{x0} \cos(kz-\omega t)\\ \large E_y&=&\large E_{y0} \cos(kz-\omega t)\\ \end{eqnarray}y方向を遅軸として\(\large{\frac{\lambda}{4}}\)波長板を透過させると、y成分に \(\displaystyle\large{\frac{\pi}{2}}\) の位相遅れを与えるため、以下のようになります。
\begin{eqnarray} \large E_x&=&\large E_{x0} \cos(kz-\omega t)\\ \large E_y&=&\large E_{y0} \cos(kz-\omega t +\frac{\pi}{2})\\ \end{eqnarray}【訂正箇所】
・図7の波長板の遅軸と速軸の記載が、文章の内容と異なっていたため、訂正しました。(2024/1/4)
・図8(右)の図が『右回り円偏光が、左回り円偏光に変換される』ことを示していましたが、正しくは『右回り円偏光が、直線偏光に変換される』であったため、訂正しました。(2024/1/4)
・(1)Eugene Heght『原著5版 ヘクト 光学Ⅱ』 2019年6月発行, 第8章 8.1~8.3 pp84~106