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ヤングの実験とは

本項では以下の内容を解説しています。

  • ・ヤングの実験の原理
  • ・干渉縞の公式の導出
  • ・縞間隔の計算
  • ・光路長が変化したときの縞の位置の計算

【1】ヤングの実験とは

ヤングの実験とは、光源をスリットにより分割し、それぞれのスリットからの光が重なる様子を、スクリーン上で観測する実験のことです。

図1にヤングの実験の概略図を示します。 ヤングの実験の説明図

図1.ヤングの実験の概略図

図1に示されているように、ヤングの実験では光源からの光を単スリットに入射し、さらに2つのスリット\(\large{S_1}\)、\(\large{S_2}\)で光を分割しています。

各スリットに到達した光は球面状に広がり、2つのスリットからの光がスクリーン上で重なり合います。
スクリーン上で重なった光は、明暗が繰り返される干渉縞を発生させます。図2にスクリーン上に発生する干渉縞のイメージを示します。 スクリーン上に発生する干渉縞のイメージ

図2.スクリーン上に発生する干渉縞のイメージ

図2では、色によって光強度の強弱を示しており、白色が光強度が大きい箇所(明線)、黒色が光強度が小さい箇所(暗線)を表しています。
スクリーンの中心には明線が位置し、中心から対称的に干渉縞が発生するという特徴があります。

(本来は、スクリーンの中心から離れるほど、光が球面に広がる影響により光強度は低下します。図2はスクリーンの中心の近傍で、光強度の低下がないと近似して計算した結果を示しています。)

【2】干渉縞の明暗の条件の導出

スクリーン上で観測される干渉縞の明暗の条件を導出します。

図3のように、複スリットの間隔を\(\large{d}\)、複スリットからスクリーンまでの距離を\(\large{L}\)とします。
また、スリット\(\large{S_1}\)とスリット\(\large{S_2}\)から放射された光がスクリーン上の点Pで重なったとき、各スリットから点Pまでの距離を\(\large{r_1}\)、\(\large{r_2}\)とします。 ヤングの実験にパラメータを入れた図

図3.ヤングの実験

ヤングの実験では、スリット\(\large{S_1}\)と\(\large{S_2}\)からの光が異なる長さの経路で伝搬することにより、点Pの位置で位相差が発生し、干渉が出現します。

このとき、スクリーン上の点Pにおける光路差は\(\large{r_2-r_1}\)により計算されます。

【2-1】光路差の計算

スクリーン上の点Pにおける光路差(\(\large{r_2 - r_1}\))を位置\(\large{x}\)の関数として導出します。

\(\large{r_1}\)、\(\large{r_2}\)は図3より以下の式で表されます。 $$\large{r_1 = \sqrt{{L}^2+{\left(x-\frac{d}{2}\right)}^2}}$$ $$\large{r_2 = \sqrt{{L}^2+{\left(x+\frac{d}{2}\right)}^2}}$$

ここで、複スリットからスクリーンまでの距離\(\large{L}\)が、スリット間隔\(\large{d}\)よりも十分に大きいとすると、以下にように近似することができます。 \begin{eqnarray} \large r_1&\large =&\large \sqrt{{L}^2+{\left(x-\frac{d}{2}\right)}^2}\\ &\large =&\large L \sqrt{1+\left(\frac{x-\frac{d}{2}}{L}\right)^2 }\\ &\large \approx& \large L \left( 1+\frac{1}{2} \frac{{\left(x - \frac{d}{2}\right)}^2}{{L}^2} \right)\\ &\large =&\large L + \frac{1}{2} \frac{{\left(x - \frac{d}{2}\right)}^2}{L} \end{eqnarray}

\(\large{r_2}\)についても同様の近似が成り立つので、以下のようになります。 $$\large{r_2 \approx L + \frac{1}{2} \frac{{(x + \frac{d}{2})}^2}{L}}$$ したがって、光路差\(\large{r_2 - r_1}\)を計算すると以下となります。 $$\large{r_2 - r_1 \approx \frac{d}{L}x}$$

【2-2】明線の発生する条件

まず、スクリーン上に明線の発生する条件を求めます。
明線は、光路差が波長の整数倍に等しい場合に発生します。

したがって、整数\(\large{m}\)における縞の位置を\(\large{x_m}\)としたときの、明線が発生する条件は以下となります。

【ヤングの実験の明縞の条件】

\(\large{\displaystyle \large {\frac{d}{L}x_m = m \lambda} \hspace{10pt} (m=0,\pm1,\pm2,\cdots)}\)

また、上式から明縞が発生するスクリーン上の座標\(\large{x_m}\)は以下のようになります。 $$\large{x_m=0,\ \pm \frac{L}{d}\lambda,\ \pm \frac{2L}{d}\lambda, \cdots}$$

図4にスクリーン上に発生する縞の明線の整数\(\large{m}\)と、縞の発生位置\(\large{x_m}\)の関係を図示します。 干渉縞の条件の整数mと明線の位置の関係

図4.スクリーン上に発生する干渉縞のイメージ

図4のように、スクリーンの中心には整数\(\large{m=0}\)に相当する明線が発生します。スクリーンの中心に明線が発生する理由は、スクリーンの中心ではスリット\(\large{S_1}\)、\(\large{S_2}\)から点Pまでの距離が等しくなるため(\(\large{r_1 = r_2}\))、光の位相が一致し、強め合う干渉となります。

また、その\(\large{m=0}\)の明線を中心にして、整数\(\large{m}\)の大きい縞が順番にスクリーンに映し出されます。

【2-2】暗線の発生する条件

縞が暗くなるためには、光路差が波長の長さの\(\large{\frac{1}{2}(2m+1)}\)倍(\(\large{m}\)は整数)である必要があります。 したがって、縞が暗くなるときの光路長差は以下となります。 $$\large{r_2 - r_1 = \frac{1}{2}(2m+1)\lambda}$$

縞が明るくなるときの計算結果をそのまま使うと、暗線の発生する条件は以下のようになります。

【ヤングの実験の暗線の条件】

\(\large{\displaystyle \large {\frac{d}{L}x_m = \frac{1}{2}(2m+1)\lambda} \hspace{10pt} (m=0,\pm1,\pm2,\cdots)}\)

【3】ヤングの実験の計算問題

本章では、ヤングの実験に関連した計算問題を記載します。

【3-1】干渉縞の間隔の計算問題

【問題】
図5の実験系において、明線の間隔\(\large{\Delta x}\)の一般式を求めよ。
また、\(\large{d=0.5[mm]}\)、\(\large{L=1[m]}\)であるとき、明線の間隔が\(\large{\Delta x = 1.26[mm]}\)であった。光源の光の波長\(\large{\lambda}\)を求めよ。
ヤングの実験の干渉縞の間隔の計算

図5.干渉縞の間隔の計算

【回答と解説】

まず、干渉縞の間隔\(\large{\Delta x}\)を計算します。
干渉縞の間隔\(\large{\Delta x}\)は、ある整数\(\large{m}\)における明線と、\(\large{m+1}\)における明線の位置の差分を求めることで計算します。

整数\(\large{m}\)の明線の発生条件は以下のようになります。 $$\large{ \displaystyle \frac{d}{L}x = m \lambda \hspace{10pt} (1)}$$ また、整数\(\large{m+1}\)の縞の条件は、以下の通りです。 $$\large{\displaystyle \frac{d}{L}(x + \Delta x) = (m+1) \lambda \hspace{10pt} (2)}$$ (1)式と(2)式の両辺の差分を計算すると、縞の間隔\(\large{\Delta x}\)は $$\large{\Delta x = \frac{L \lambda}{d}}$$

下の図に、整数\(\large{m}\)と\(\large{m+1}\)の縞の位置と縞間隔の関係を図示した図を示します。 ヤングの実験の縞間隔の計算

図6.ヤングの実験の縞間隔の計算

また、求められた縞間隔の式\(\large{\Delta x = \frac{L \lambda}{d}}\)から\(\large{\Delta x = 1.26[mm]}\)のときの光源の波長は以下のように求められます。 $$\large{\lambda = \frac{d \Delta x}{L} = \frac{0.5 \times 10^{-3} \times 1.26 \times 10^{-3}}{1}=6.30 \times 10^{-7}[m]}$$

【3-2】光路長を変化させた場合の計算問題

【問題】
スリット\(\large{s_1}\)のスクリーン側に屈折率\(\large{n}\)、厚み\(\large{t}\)の透明媒質を配置したとき、スクリーンの中心(\(\large{x=0}\))の位置にあった干渉縞の位置はどれだけ変化するか。
(ただし、厚み\(\large{t}\)は、複スリットからスクリーンまでの距離\(\large{L}\)に比べて十分に薄く、透明媒質中を光は\(\large{z}\)軸方向に平行に進行するとして計算する。)
ヤングの実験のスリットに透明媒質を配置した説明図

図7.ヤングの実験のスリットに透明媒質を配置した図

【回答と解説】

問題文の『スクリーンの中心で発生していた明線』は、整数\(\large{m=0}\)において強め合う縞のことです。 したがって、\(\large{m=0}\)の条件で発生した明線がどれだけ\(\large{x}\)方向にずれるかを計算します。

スリット\(\large{S_1}\)の前に屈折率\(\large{n}\)の透明媒質を配置したときの光路長は以下のようになります。 $$\large{r_1 = S_1 P -t + nt}$$ 光路差を計算すると以下のようになります。 \begin{eqnarray} \large r_2 - r_1&\large = &\large \sqrt{{L}^2+{(x+\frac{d}{2})}^2} - \sqrt{{L}^2+{(x-\frac{d}{2})}^2} +t -nt \\ &\large \approx&\large \frac{d}{L}x +t -nt\\ \end{eqnarray} したがって、上記の光路差に対して明線の発生する条件は、以下のようになります。 $$\large{\frac{d}{L}x +t -nt = m \lambda}$$ スクリーンの中心に発生していた明縞は、整数\(\large{m=0}\)の条件で発生していたため、\(\large{m=0}\)を上式に代入すると、 $$\large{\frac{d}{L}x +t -nt = 0}$$ $$\large{x = \frac{(n-1)tL}{d}}$$ したがって、スリット\(\large{s_1}\)のスクリーン側に屈折率\(\large{n}\)、厚み\(\large{t}\)の透明媒質を配置すると、\(\large{m=0}\)の明線は\(\large{\frac{(n-1)tL}{d}}\)だけ上方の位置に変化します。


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